恒例となりました『東京神田神保町映画祭の新年特別企画』第3弾は、
学生審査会賞の受賞作品「春みたいだ」シガヤダイスケ監督(写真左)のインタビューです。
新人監督の登竜門とも言える”PFFアワード” ”東京学生映画祭”受賞作でもあり注目の作品となった「春みたいだ」について、また学生映画のことやシガヤ監督が考えている映画制作についてのお話等を伺いました。
インタビュアーは、学生審査会にも参加された首都圏映画サークル連合の山本航平さん(写真右※東京大学スピカ所属)です。
山本:本日はよろしくお願いします。僕は首都圏映画サークル連合という団体に所属していまして、
第3回東京神田神保町映画祭の学生審査会もさせて頂き、今回のシガヤ監督のインタビュー担当をやられて頂くことになりました。
大学生で映画を撮っている者としては、学生映画でPFFアワードをはじめ
名だたるコンペティションで賞をとっていらっしゃるシガヤ監督にお話を伺えるということで、とても光栄に思います。
シガヤ:ありがとうございます。
山本:さっそくなのですが「春みたいだ」は卒業制作で撮られた作品とのことですが、
シナリオの着想とか、テーマ選びはどうされたのでしょうか。
シガヤ:最初に「春みたいだ」というタイトルが思い浮かびました。
僕自身が「春一番」が好きで、そういう映画を撮りたいと思ったのがきっかけです。
2月頃に「春一番」が吹くと急に気温が温かくなって一時的に春みたいな陽気になるんですけど、
また翌日くらいには寒い冬に戻ちゃって、「春みたい」だけど「春」じゃないっていう。
そんなお話をつくりたいと思ってシナリオを書きました。
ゲイのカップルの話が中心に描かれているので、
「セクシャルマイノリティ」とか「同性愛」をテーマにして映画をつくった理由とかをよく聞かれるのですが、
つくり方としてはイメージが先でタイトルが決まって、そこにストーリーや登場人物を肉付けしていったら、ゲイカップルの話になったというか…。
友人にもゲイのカップルがいたりするので身近なこととして、普段から感じることはあったからかもしれないですが。
「セクシャルマイノリティ」をテーマに何かを訴えたいとかっていうのは、
ちょっと違うというか…当事者でもない僕がやったところで説得力ないですしね。
だから逆にそこは持ち出さないで、自分の経験など男女の恋愛を脚本にして、
これが男と男だったらどう見えるかな?という感じで脚本をつくっていきました。
山本:いつもご自身でシナリオを書かれていますか?
シガヤ:そうですね。シナリオを自分で書くのが当たり前というか、誰か別の人に書いてもらうというのは、ズルいような気がしていて。
学生時代から下手でもいいから自分で書くことに挑戦してました。
もし書いてみてどうにもならなかったら、それはそれとして諦めがつきますし。
まだ売れてもない学生監督が脚本を他の人に書いてもらうっていうのは何だか…。
それに「自分で映画をやっていきたい」という気持ちがあるのなら、自分の中にあるものは自分で書きたいと思っていたので、映画をつくること と、シナリオを書くことはセットで考えていました。
だけど卒業してから、もう一人映画作っている仲間と共同制作を行うことにして、
お互いのやりたいことを持ち寄って折衷案みたいなところで、自分には思いつかないというか…ひとりではできないようなプラスアルファの作用があるのではないかと感じ始めて、探っているところです。
自然光が印象的で美しい
山本:個人的に印象に残ったのが、シンとカズが暮らす部屋の窓から差し込んでくる光です。
特に夕日のシーンが非常に美しいと感じました。
どちらも自然光をつかっていたと思うのですが、ロケ地選びや時間帯、タイムスケジュールの組み方など苦労されたのではないでしょうか。
何か工夫されたことはありますか?
シガヤ:夕日に関していえば、僕はとくに技術的な工夫はしてなくて。
信頼のおけるカメラマンが照明も兼任してくれていたので技術面はお任せしてました。
ただ自然光の夕日をつかうことで、映画の中でも意味が出てくるというか…そういうことは意識して撮りました。
日没の30分くらいで撮影をしなければならないので、
リハーサルをどの程度やるかというのは悩みましたね。
きっちりリハーサルをやれば夕日に合わせることはできるけど、
お芝居の面ではそれが吉とでるとは限らないですし。
どのくらいリハーサルをすれば良いシーンが撮れるのか、見極めが難しくて悩みました。
山本:役者さんとのコミュニケーションは映画づくりで要になってくると思いますが、
リハーサルや演出はどのような形でされたのでしょうか。
シガヤ:撮影が始まる1か月前に、カメラがない状態で僕と役者さんだけで集まって
読み合わせ含めてリハーサルをやりました。
今回はフィルム撮影なので、どうしてもカメラをまわした分お金がかかってしまうので、
技術スタッフが必要になるギリギリのところまで芝居を固めて、本番に備えました。
あとは現場に入ってから、リハーサルどおりの動きをやってもらいながら、カットを割っていきます。
部屋で一人で考えたカット割り通りに撮影するって、
「作業」のような感じがしてしまうので、撮影日に現場で決めています。
お金がなくても無いなりの工夫を
山本:もう一点、「雨」や「シャワー」など、「水」を映すシーンが多くあったことが
僕にとって印象的でした。何か意図するところはあったのでしょうか。
シガヤ:『水』は意図的にいれてますが、夕日ほどは深い意味はではなくて、
どちらかと言えば、「水」を使った演出をすることで、
自分たちの小規模な作品をリッチに見せられるんじゃないかという思惑が先にありました。
山本:フィルムで撮ろうと思ったのはどうしてですか?またフィルム撮影による制約はありましたか?
シガヤ:フィルムだと映像の説得力が全然違う気がしていて。
今回は題材的にも、お芝居とストーリ以外にもプラスアルファで説得力を持たせたかったのでフィルムの力を借りたいなと思いました。
ただフィルムだと単純にお金がやばいですね(笑)
1巻9分ってロール計算の感覚がなかなか掴めなくて苦労しました。
自分が一体どのくらい回してるのか分からないっていう…
フィルム1巻ってだいたい学割で買っても1万円5~6千円くらいかかるので
それを一日で3巻使っちゃったりして…(笑)
感覚をつかむまで、すごく怖かったですけどね。
テイクを重ねると費用的にも厳しいので、自分なりに線引きをしてカットごとに時間配分を工夫しました。
途中でフィルムが足りなくなってしまって、お金も尽きてどうしようもなくなったときに、
たまたま別の子がフィルムで撮っていたのが残ったらしいのを聞きつけて、交渉して譲ってもらいました。
そのフィルムをくっつけて撮影して…なんとか撮り切ることができました。
クランクイン直前に出演者とケンカ。でも結果的にそれがよかった
山本:日芸の卒業制作といえば、とても大掛かりでプロの役者さんを雇ってというイメージなのですが、実際のところはいかがでしょうか。
シガヤ:機材は学校から借りれますが費用は全部自費ですし、ぼほ自主制作と変わらないですよ。たぶんイメージしているよりも地味ですよ。
今回はどうしてもフィルムで撮りたかったので、それ以外の費用は節約しました。
例えば、ロケ地とかに何10万も使ったりする人もいたんですけど、僕はロケ地には全くお金を使っていないです。
メインの場所になったシンとカズの部屋は、おばあちゃんの家を借りました。
何もない部屋だったので、ソファとか自分で集めてきたものを独りもくもくと運んだりして。ちょっと孤独でしたね(苦笑)
山本:他に大変だったことや、苦労したことはありましたか?
シガヤ:今回はスタッフもキャストも前から知っている方にお願いしたので、
そういう面ではわりとスムーズにすすんだので、苦労というのは余りないですかねぇ。
ただ逆にシン役の五十嵐拓人さんとは付き合いも長くて
気が許せる仲だったので、クランクイン直前にケンカをしてしまって…。
そのせいで撮影が一か月先伸ばしになってしまいました。
でも結果的に、それがよかったのですが(笑)
当初10月に撮影する予定だったのですが、クランクイン直前まで他の人を手伝わなければならなくて準備時間が取れなかったので…じつは延期になったおかげで脚本も見直せたし美術の作り込みにも時間がとれました。
日芸の卒業制作は監督コース5人で班を組まされて、順番に各々の現場を手伝って作品をつくります。
僕の映画は10月に撮る予定で、8月、9月ほかの現場での手伝いが決まっていたので
本当は7月には自分の作品のプリプロ終わらせていないとダメだったんです…それが間に合わなくて。
だから変な話になりますが、ケンカして延期になったのは、あとから考えてたらラッキーでしたね
シガヤ:そうですね。やっぱりいいカメラマンに出会えたことが一番のラッキーですね。
映画の学校に入ったから、いいカメラマンに出会えるというわけでもないですから。
技術的の上手い下手だけじゃなくて、やりたいことを伝えるための
意思疎通が取りやすいことも大事ですから。
相性のよいカメラマンに早いうちに出会えたことは僕にとってラッキーでした。
ー妥協しない作品づくりが大切
山本 :いろいろな映画祭に参加されて、作品をご覧になる機会も多くあったと思うのですが、
学生映画について何か思うことがありましたらお聞かせください
シガヤ :そうですね。自分もついこの間までやっていた身なので恐縮ですが、
「学生だから」ということで妥協しない作品が映画祭でも評価を受けてると思います。
面白い作品をつくるのに単にお金を積めばいいという問題ではなくて、制作者の妥協しない気持ちというか…姿勢というか。
お金がないななら無いなりの戦略はあると思うし、低予算でも面白い作品はたくさんあります。
そういうことを解決しようと試行錯誤している様子が見てとれる作品は僕も好きですね。
一映画づくりのモチベーションについて
山本:僕自身も学生で映画を撮っている身として監督に質問したいのですが、自分の作品をコンペティションに出して上映してもらうことや、
賞を狙うというのも動機づけの一つだと思うのですが、監督はどういったモチベーションで映画を撮られていますか?
いまと学生時代とで、心境に変化があったりしますか?
シガヤ:映画の学校だったので映画を撮ることは当たり前だったんですが、逆に映画祭に出したりしてこなくて。
「春みたいだ」が初めての応募作品なんです。
もちろん卒業制作ということもあったんですが、あんなに苦労して、お金も1円もなくなるくらい
必死になって撮ったのに…これを出品しないなんて考えられない!と思ったので。
正直、自分の作品がいいかどうかは麻痺しちゃっててわからないので、
賞をとれるとかどうかは考えてなかったんですが。
こんだけやって出さないなんて、どう考えてもおかしいって思ったので…。
今思えば学生時代にも、映画祭やコンペにもっと応募すればよかったって後悔してます。
応募して落ちてもいいと思うんですよ。自分の立ち位置が分かるから。ダメだったらダメなんだって分かるし。
学内だけの根拠のない自信みたいなが増えてしまって、卒業後は外の人と戦わなきゃいけないのに…。
あとは学生時代はお金はないけど暇だったっていう…どっかで遊ぶ?ってなるよりも、
じゃあ自分たちで1万円とか2万円とかお金出して映画つくるろうという感じでしたね。
とくに1年のときは埼玉の所沢っていうところにキャンパスがあって、
周りが本当に何も無かったので、謎のエネルギーで量産してました(笑)
山本:意外でした。勝手な想像ですが、
もっとコンペティションに出したりして、プロ思考で貪欲に応募してると思っていました。
シガヤ:ぜんぜん、そんなことないですよ。学校自体が映画の学校だったので
外とかかわりがなくても、回るというか、そういう環境だったので。
ー分からないなりにもうっすらとした道が見え始めて
山本:今後の活動や挑戦したいジャンルはありますか?
シガヤ:実際に出来るかどうかは別として個人的に好きなのは
宇宙空間のパニック映画でああいうのを撮りたいですね(笑)
でも、なかなか現実には難しいと思うので、現実的なところで言えば
山下敦弘監督の「リアリズムの宿」とかが大好きなので、
ああいう”オフビートな作品”に挑戦してみたいです。
「春みたいだ」は、ちょっと感情が先行している作品なので、次は逆で感情的にならないような…、気持ちのいい引き方をしてくれる映画を撮ってみたいですね。
山本:僕も「リアリズムの宿」は大好きです。最初のシーンとかいいですよね。
シガヤ:そうそう。最初の気まずい感じとか、あとは年齢を聞いた途端に態度が変わるヤツ(笑)
山本:賞をもらったことで、何か変化はありましたか?
シガヤ:そうですね。分からないなりにも、うっすらとした道が見えてきたというか…
映画監督で「プロになる」ということが、これまで以上に遠く感じました。
東京学生映画祭がご縁で知り合った今泉力也監督とも飲みながら話していたんですけども
「賞は水もの」だよっていう…本当にそうだなって思いましたね。
2017年は嬉しい「まさか」がたくさんあって「自分がこんなことになるとは…」という感じだったんですが、実際にはまだ何にもなっていないし、「この先も何にもなれないんじゃないか」って…。そういう危機感はずっと忘れないでいたいです。
ー「自分が本当にやりたいことは何だろう」と問いかける
山本:学生時代とは環境も変化したと思いますが、映画をつくるモチベーションにも変化はありましたか?
シガヤ:そうですね。恵まれた環境に4年間もいたので以前よりも映画をつくるのが大変です。
お金があれば出来ることも増えるのですが、いまは資金を集めてお金をかけるというよりも、いい脚本を書きたいです。
僕は脚本がよければ、いい映画が撮れると思っているので。
それから、最近個人的に感じたことなのですが、東京で映画を撮っていると、いろいろな情報が多いので…
どうしても人と比べて自分がどうかっていうのが気になってしまうので。
自分よりも若い監督が賞をもらったり、活躍しているのを見たりすると
「じゃあ俺もこれくらいやんなきゃ」みたいな謎の強迫観念が生まれたりっていう。
そういうことは誰しもあると思うんですが、映画を撮るときのモチベーションとしては、どうかなって思いました。
「本当に撮りたいもの」がちょっと薄まっちゃってるというか。
ちょうど最近まで、とある台本を書いていたんですが
「誰にも負けず絶対に抜けてやる!」みたいな気持ちで書き上げてしまって。
そんなモチベーションで書かなきゃよかったって、あとから思いました。
そんなことがあって、僕は「自分が本当にやりたいこと」って何だろう?と、自分に問いかけながら映画をつくっていきたいなって思います。
山本:長時間のインタビューありがとうございました。
インタビュ―を終えての感想 山本航平
「日芸出身」「ぴあ」などの肩書きに、学生映画に関わっている者ならだれでも身構え、別世界の人間のように感じてしまう。
「春みたいだ」という作品だけをとっても、完成度、作家性という点で自主映画の中で抜きん出ていることは明らかだ。ところが本インタビューを通して浮かび上がったのは、エネルギーを持て余して、自由気ままに街に繰り出し、友人と一緒にカメラを回している、私たちと同世代の映画好きとしての一面であったように思う。
「映画祭で賞を取ることで、かえってプロへの道が遠くなった」という言葉が強く印象に残った。
名だたる先人たちがかつて歩んできた軌道に自分も乗せられることで、プロへの道のりがいかに険しく、
途方もないほどに遠いものであったかを目の当たりにしている、という。
私を含め映画に関わっているほとんどの学生は、その景色を見ることもなく引退してしまう。
だからこそ、シガヤ監督が今後どのような映画を作っていくのか、一人の観客として追いかけていきたい。
シガヤダイスケ(監督) 1994年生まれ、神奈川県出身。 日本大学芸術学映画学科に入学し、短編映画を中心にnever young beachなどMVを多数制作。 卒業制作『春みたいだ』が東京学生映画祭にて観客賞、審査員特別賞受賞。 第36回PFFアワードにて、エンターテインメント賞(ホリプロ賞)受賞。 そして本作は、来年2月に香港での上映を控えている。 |
山本航平(インタビュー担当) 首都圏映画サークル連合所属。東京大学2年生。映画サークル スピカに所属して、自身でも映画製作を行っている。2017年第3回東京神田神保町映画祭にて学生審査委員として参加。 |
インタビュ―:山本航平
文:向日水ニャミ子
スチル:徳田 巌